音楽プロモーション戦略一考:フリー経済学のススメ

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ライブ活動、楽曲ダウンロード販売、音楽CD販売etc…。音楽の収益モデルは複数ありますが、音楽だけで食べている人はそう多くありません。日本のCD市場はピークだった1998年の収益の約3分の1に縮小、世界の音楽市場も12年間で4割も縮小したといわれています。
 
また、音楽業界を調査したコンサルティング会社の報告によると、音楽ソフト全体の収益の77%は、全アーティストの中のたった1%によって独占されています。そして実際には、その1%のアーティストが稼いだ売上も、所属するレーベルに吸い上げられ、コンテンツそのものを製作しているアーティストの懐に入る額はさらに少ないというのが現状です。
 
このような状況下で、「音楽だけで食べていく」というライフスタイルの実現は、不可能と言わないまでも、かなりハードルが高く思えて当然といえるでしょう。
 
itunes

CD市場、音楽市場の縮小の原因について考えてみる

CD市場や世界の音楽市場の縮小の背景には、インターネット環境の利便性を享受するユーザーの増大と、既得権にとらわれた音楽業界の従来の収益モデルが通用しなくなった現実があります。既存の音楽収益モデルによる大きな成功が、逆に大手レーベル経営陣の感覚を著しく鈍らせてしまっていたとも言えるでしょう。
 
特に日本の音楽業界の最大手に君臨し続けていたソニーの失敗は顕著で、ウォークマン、メモリスティック、ホームサーバなど自社の提供するハードに音楽を入れて鑑賞してもらうという戦略にこだわり過ぎ、itunesなどへの楽曲配信が後手に回り、有能な所属アーティストの収益機会を大きく損なってきました。

ラジオ×CD、過去の収益モデルを見直すことから見えてくる風穴

登場から30年以上の歴史を持つ音楽CDの売上げを支えてきたのは長い間、ラジオ局との共闘体制でした。大手レーベルはラジオの広告枠を奪い合い、番組内で所属アーティストの楽曲を紹介してもらい、売上げに反映させていました。
 
しかし、2000年代に入るとインターネットの普及やレンタルCD、違法ダウンロード、youtubeの台頭などの複合的な要因で、ラジオ×CDの巨大な収益モデルは瓦解。レコチョク×着うた販売による日本の大手レーベルの巻き返しが一時成功したかに見えましたが、iphoneの普及によりレーベル収益の少ないitunesの配信にダウンロード市場を席巻されるようになりました。
 
これらの推移を分析してみると、2つのキーワードが浮かび上がってきます。ラジオ×CDの収益モデル、MP3データ×itunes、CDレンタル×itunes…変遷していく市場の構造には、必ず「free」(無料)と「premium」(割増金)という2段構えが存在していることがわかりま€す。

「free」+「premium」と、「Penny Gap」という概念

前述の「free」そして「premium」の2段構え=『フリーミアム』という考え方について初めて指摘したのは、米『ワイヤード』誌の編集長クリス・アンダーソン氏。彼は「ロングテール」などのネットビジネスに不可欠な概念を提唱したことでも有名です。
 
クリスアンダーソン
 
『フリーミアム』は、無料サービス「free」を大量のユーザーに提供し、その後、有償サービス「premium」によって収益を得るビジネスモデルを指します。ちなみに、ウェブ上では95%が無料ユーザーであっても5%の有料ユーザーがいればビジネスは成立すると仮定し、「5%ルール」を基礎にしてビジネス構築をすることがマーケッターの間で常識化してきています。
 
前述のソニーなどは、「premium」でソフト&ハード両面の自社提供に固執したばかりか、ラジオやテレビ等の「free」リスナーがインターネットへ流出している状況に対応するのも遅れ、『フリーミアム』の定石から大きく外れてしまいました。
 
クリス・アンダーソン氏によると、1ペニーでも課金する場合と無料とは大きな違いがあり、実験なども含めて無料ということがユーザーに与える心理的影響は非常に大きいことが分かったとのこと。そして価格を下げていってゼロになった時に需要が非線形的な伸びを示すことが分かっており、この大きな需要の差を「Penny Gap」といいます。

youtubeコメント欄に見る邦楽アーティストの成功と残念な現状

最近、サブカル系や地下アイドル系の邦楽アーティストのyoutube公式動画には、非常に多くの海外コメントが投稿されています。アニメやアイドルなどの日本のいわゆるオタク系サブカルは大量の海外ネットユーザーに受け入れられており、実際babymetal等の海外ツアーも近年大成功を収めていることは多くの方がご存知かと思います。
 

 
しかし、サブカル人気から派生した他の様々な邦楽アーティストのyoutube公式動画の海外コメントを読んでみると、「自国のitunesストアで楽曲を買おうと思ったら無かった」「うちの地元でもライブして!」等、「premium」の刈り取りが十分に行われていない例も散見され、せっかく「free」で開拓した購買層の需要を満たし切れていない現状が各言語で嘆かれています。

柔軟な「free」展開と取り零しのない「premium」提供で、才能にぶら下がるノボせた大手レーベルを出し抜け!

現在はyoutube、ニコニコ動画、ブログやツイッター(アイドルの日記など)配信等が「free」の台頭勢力ですが、時代の変遷とともに状況は変化していくことは間違いありません。時代に合わせた「free」展開の場を模索し、リーチした購買層の需要をきっちり「premium」で満たす戦略を立てるで、動きの鈍い大手レーベルを出し抜いた市場開拓は可能であると筆者は考えます。
 
フリーミアムやフリー経済学についてはネット上でさらに詳しく調べることができ、日本語の関連書籍も数多く存在していますので、是非情報を集めてみることをオススメしたいと思います。クリエイターの才能にぶら下がってきた大手レーベルが衰退の道を辿っている今こそ、音楽家が独立独歩で食べていけるアーティスト黄金時代の幕開けなのかもしれません。
 
参照元:フリーミアムとは-コトバンク
クリス・アンダーソン-Wikipedia
執筆:muu

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